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ちょっと全文は間に合いませんでした。
でもやっぱり今日でないと意味がないので、はじめだけブログに掲載しますね。残りは後日更新します。
ルルーシュ、本当に誕生日おめでとう。
生まれてきてくれて、ありがとう。


続きから『起死回生恋愛理論』になります。




+ + + + + + + + + +
■起死回生恋愛理論■">


誕生日に恋に落ちた。

「…なあ、」

相手は、屋上から落ちるところだった。

「ここ、俺の家なんだが」

死にたがりに、恋をした。





























母と妹と暮らす自宅マンションの屋上は、物心ついた頃からルルーシュの秘密基地のようなものだった。
そこそこ展望の良い屋上は日差しを遮るものもなく、しかも一級河川に面していて気持ちが良い。
俺は何をするでもなく、そこで暇を潰すことがよくあった。

今日は朝から母と弟妹は何かと忙しく、それが自分の誕生日のためだとわかっているから妙にくすぐったかった。
慣れないケーキ作りに奮闘する弟と妹は実に愛らしくかった。
しかしそれ以上に、包丁や電動ミキサーで怪我でもしないかと気を揉んだ。
結局とうとう手を出そうとして、「兄さんが作ったら意味がないじゃないか!」「そうですよ。出来上がるまで、お兄様は散歩でもなさっていていて下さい」と二人の総攻撃を受けて家を追い出されてしまった。
しかし今年の誕生日は土曜日に当たったため、学校という逃げ場もない。

自然と足はマンションの屋上に向いた。
最上階のロックされた錠を外し、階段を上がる。
風が痛いくらに冷たかった。
さすがに寒いが、部屋に戻れば優しい妹が温かい紅茶を入れてくれるだろう。
そう思えば、しばらくは寒さも耐えられそうだった。
十八の誕生日は、そうして何事もなく穏やかに過ぎるはずだったのだ。
そう、たった一つのイレギュラーさえなければ。

*

屋上には珍しく先客がいた。
珍しく、という表現は正しくはない。
ルルーシュが知る限り、この屋上で人と会うのは初めてだった。

「…なあ、」

ついでに言うなら、自殺しようとしている人間に出会うのも初めてだった。
彼はこちらに背を向けて、フェンスの向こう側に立っていた。
風は冷たかったが、雲は少なく清々しい天気だったから、一見すれば景色を楽しんでいるようにも見えた。
細身の背中も、どこか愉しげで伸びやかだった。
けれど悪ふざけではないと言い切れるのは、脱ぎ捨てたスニーカーがフェンスの手前に鎮座していたからだ。
ご丁寧に、靴の中にはソックスが詰め込まれ、その下には遺書らしい真っ白な封筒まであった。
そんな状況でも不思議と慌てなかったのは、彼の裸足の両足ばかりが気掛かりだったのだ。

「ここ、俺の家なんだが」

風が吹いて、彼のくるくるとした茶色い癖毛がふわりと揺れる。
声を掛けると、彼は動揺する素振りもなくゆっくりと振り向いた。
カシャン、と細いフェンスが小さく軋む。
ひたとこちらを見つめる瞳は存外穏やかで、新緑に似たグリーンの虹彩が淡く滲んだ。
足取りに危なげなところは微塵も感じられない。
ルルーシュの姿を見て、彼は小さく小首を傾げた。

「…あれ、ここ立ち入り禁止だよ?」

「知ってる。おまえこそどうなんだ。このマンションの住人じゃないだろう?」

「僕は良いんだよ。だって今から死ぬんだもの」

今日の空のように、薄く澄んだ笑顔を浮かべて彼はこともなげに言った。
ルルーシュは溜息をつく。
視線の先には、やはり裸足の両足があった。
下を向いたまま、ルルーシュは彼に尋ねた。

「何で死ぬんだ?」

「悲しいことがあったからだよ」

「悲しいことって?」

「好きな子に振られた」

「今日ここで死ぬ必要性は?」

「君には言えないけど、僕にはあるんだ」

「どうしても死ぬのか?」

「うん」

「…じゃあ」

一歩一歩、フェンスに近づいていく。
白い封筒を拾い上げ、ひらりと翳す。

「死ぬ前に、俺の暇つぶしに付き合う気はないか?」

フェンス越し、1メートルにも満たない距離で問う。
彼は悲しいような、驚いたような、酷く傷ついたような、そんな複雑な表情を交錯させた。
くしゃりと音を立てて泣き出しそうな顔だったが、それは一瞬のことだった。
じっと考えるように、静かにルルーシュの手にある手紙を見ていた。

「うん、良いよ。僕が死ぬまで、付き合ってあげる」

そして無邪気な子供のように、スザクは笑った。
それから高いフェンスを猿のように軽々と越え、着地した。
靴下を履き、スニーカーの靴紐をきつく結ぶ。
ルルーシュは持ったままの手紙を裏返した。
封筒には律儀に名前だけ記されている。

「枢木スザク、か。良い名前だな」

「それ、しばらく預かってくれるかい?あ、中は見ないでね」

「安心しろ。女への未練が書かれた遺書なんて興味ない」

文字通り、死ぬほど好きな相手に届けるにしてはやけに薄い手紙だと思った。
わずかな違和感ごと、そのままコートのポケットにしまう。
とんだ誕生日になったものだ。

「じゃあ行こうか。…ああそう言えば、僕はまだ君の名前を聞いてないね」

「俺はルルーシュ・ランペルージだ。ちなみに、今日が誕生日だった」

「へえ、それは災難だったね。こんな自殺者拾うなんて。うん、でも、とりあえずお誕生日おめでとうルルーシュ」

ルルーシュは「ありがとう」と苦笑いをこぼす。
スザクはハッピーバースデーを、やや音を外しながら鼻歌で歌った。
ルルーシュは「へたくそ」と笑いながら階段に向かった。
しかし正直に告白すれば、ルルーシュはこのイレギュラーを楽しんですらいた。
何故なら、一瞬にして信じられないほど惹かれたのだ。
この、死にたがりの少年に。



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