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空気が必要だと言うなら、この吐息を。
水が必要だと言うなら、この涙を。
君がくれた種は、永遠に僕が守るから。
ルルーシュが知る不器用な指が、軽やかに動く。
風に揺れる木陰と、髪に触れる指先が優しくて、とろりとした眠気に包まれた。
「動くなよ。傷がつく」
真剣な声が心地良く、けれどその叱咤に重い瞼を押し上げた。
首をきちんと固定すると、スザクの持つハサミが動き出し、再び髪を切り落とした。
目の前には、キラキラと反射する常緑樹の葉。
その強い輝きが、どうにもスザクの瞳に似ているよう。
あそこに咲く花は、ならば自分であると良いと、ルルーシュは思った。
当たり前のようにそう思ったことに、ふと引っかかったけれど、それを突き詰めるには至れない。
スザクの手が髪を梳くたびに、首が傾げそうなほど、今はただ眠くて仕方ない。
「ったく、こんなに前髪が伸びてたら、目、悪くするんだからな!」
「わかってる」
「ルルーシュ、もう少しだから、寝るなよ」
「…わかってる」
「大体、夜更かしして本なんか読んでるから、昼間に眠くなるんだぞ」
「……わかって…る」
言い返す言葉も、もう力が入らない。
いっそスザクの叱責を覚悟して、この誘惑に拐かされてみようかと、ルルーシュは鉛のように重たい瞼を閉じた。
スザクは余程真剣に髪を弄っているようで、怒声が飛んでくることはなかった。
シャキン、と鋏が空を切ったところで、ふと空気が変わり、目を開けた。
「ルルーシュ、出来たぞ!」
目の前が、眩しい笑顔に染まる。
体の奥で、何かが弾ける音が確かに聞こえた。
緩やかに、自覚が訪れる。
あの常盤の葉には、いつか花が咲くだろう。
例え、この笑顔から遠く離れても。
膨れ上がる感情に、思わず言葉が零れ落ちた。
(すき)
「ん?ルルーシュなんか言ったか?」
首を傾げるスザクに、なんでもないよ、とルルーシュは笑って言った。
穏やかな風に切り揃えたばかりの髪が翻る。
風避けにルルーシュの顔の横に翳してくれたスザクの手のひらを見つめた。
この胸に種を蒔いたのは、優しいその指。
けれど、花が咲くのはまだ遠い。
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