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今夜は、日本国主催のサクラダイト分配式。
そしてそれに伴うパーティーが行われる日です。
サクラダイトを望む各国の重鎮が集う、年一回のそれは世界でも注目を浴びる、それはそれは絢爛豪華なパーティーなのです。
「では行ってくるから、おとなしく待っているんだよ」
「土産はちゃんと買ってきてやるから案ずるな、我が義弟よ!」
「ごめんなさいお兄様。行ってきますね」
「…あの、なんで俺だけ留守番なんですか?」
けれども可哀想に。ルルーシュは、おうちに一人お留守番。
漏らされた不満を聞いて、クロヴィスお兄様は顔色を変えました。
「当たり前だ!今日は会場に枢木スザクがいるのだぞ!?そんな危険な会場におまえを連れて行ける訳がないだろうっ」
「…スザクは俺の幼なじみなんですが……」
「でも、パーティーであまりお二人が仲が良さそうだと、他国にサクラダイトの分配量に対して疑問を持つかもしれないと、シュナイゼルお兄様も…」
「ナナリー騙されるな…。兄上の言うことは八割嘘だ」
「ははは、随分な言い種だね。でも、君だってブリタニアはともかく、枢木スザクにまで余計な不利益を招くのは本意じゃないだろう?」
「それは、そうですが…」
「じゃあ、私たちの言う通り、留守番していてくれるね…?」
「……わかりましたよ。もともとそういった堅苦しいのは嫌いですし、家にいますよ」
もともと社交場嫌いなルルーシュは、兄や妹が言うこともあって割とすんなり納得してしまいました。
ルルーシュが来ないことで大いに嘆くであろう幼なじみのことは、あまり頭にないようです。
「それでは、改めて行ってくるよ」
「はい。お気をつけて。でもナナリーもいるんですから、あまり遅くならないで下さいね。日付が変わる前には戻ること」
「わかりました。あ、そうだお兄様、帰ってきたらこの間の本の続きを読んで下さいますか?」
「もちろん。だけどくれぐれも遅くなるなよ」
「はいっ。いってきます」
「ああ、楽しんでおいで」
ルルーシュは兄たちを送り出したあと、思いがけず空いてしまった時間を持て余してしました。
「ちょうど良いから掃除でもしているか」
けれど綺麗好きなルルーシュは、特に迷うことなくホウキを取りに行きました。
そこへ、灰色の魔女が表れてルルーシュに言いました。
「馬鹿なルルーシュ。何故パーティーへ行かない?」
傲岸不遜な物言いに、ルルーシュは冷笑を浮かべて答えます。
「あんなものわざわざ行く必要があるか?というかそもそも、貴様には関係がない」
「まあ、関係ないと言えばないが…。
私は優しい魔女だからな、愚かなルルーシュに良いことを教えにきてやったんだ」
「はっ、おまえのことだ。どうせ下らないことだろう。聞く気はない」
ルルーシュは魔女の言うことに耳を貸さず、さっさと掃除に取り掛かります。
それを見て、美しいエメラルドの髪を靡かせて魔女は愉快そうに笑います。
「それが枢木スザクのことだとしても、おまえは同じことが言えるか?」
ホウキを持つルルーシュの細い手がピタリと止まるのを見て、魔女はますます楽しそうに微笑みます。
「ピザ、十枚だ」
「………結ぶぞ、その契約」
実に不本意そうに顔を歪めたルルーシュが、渋々条件を飲みました。
どうやら魔女はピザがお好きなようです。ご満悦のていで、人が悪そうにひとつ頷きました。
「その前に質問をしよう。
リ姉妹は以前KMFの国際交流試合で枢木スザクと面識があるのはおまえも知っているだろう?
それ以降ユーフェミアが枢木スザクにご執心だというのは、知っていたか?」
「………一応は」
「さて、それでは本題だ。今日のサクラダイト分配式に桃色の姫君が参加すると知っていたか?」
魔女がそう言うと、ルルーシュの顔色がさっと変わりました。
いくら可愛い義妹だろうと、愛しい恋人を盗られてはたまりません。
「…会場へ行く。今すぐだ」
「賢明だなルルーシュ。服は…そうだな、あれが良い。
白のドレススーツがあっただろう、シルクのハイカラーシャツと揃いの」
「馬鹿な。あれは兄上が戯れで贈ってきたものだ。袖すら通していない」
黒を好むルルーシュに対する嫌がらせなのか、上から下まで真っ白な素敵なスーツをシュナイゼル兄上に渡されたことがあるのです。
今思い出しても胡散臭い笑顔を思い浮かべ、ルルーシュは行儀悪く舌打ちをしました。
「枢木は今日黒のスーツだ。取り合わせとしても、その方が格好がつく」
「なんでおまえがスザクの服装を知っているんだ!」
「文句を言わずさっさとクローゼットを漁って来い。それから足の調達だ」
「貴様に言われなくてもわかっている」
ルルーシュは寝室に向かいながら素早く携帯電話を取り出します。
「…リヴァルか?俺だ。今すぐうちまで来い。五分以内だ急げよ。
………はぁ?ミレイが南瓜プディングを焼いてくれる予定?
…知るか。兎に角早く来い。こっちは緊急なんだ!」
通話の終わる間際、泣きそうな声が聞こえましたが、それに同情するような存在は、残念ながらここにはいません。
ルルーシュは魔女に言われた通りのスーツをクローゼットから取り出すと、ぶつぶつ文句を言いながら手早く身に着けます。
仕上げに紅薔薇をモチーフにしたカメオを、リボンタイでキュッと締めました。
鏡に映るのは、それはそれは麗しく真白いルルーシュの姿です。
振り返って、ルルーシュは魔女を睨みながら問いました。
「ユフィが行くことを知っていたなら、何故事前に知らせなかった?」
その時丁度、家の前でバイクの急停車するけたたましい音が響きました。
リヴァルのバイクに間違いありません。
ルルーシュはちらりと魔女に目を遣りましたが、答える気がないのを知って溜息を吐きます。
「まあ、良い。一応礼だけは言っておく」
「ああ、行ってこいルルーシュ」
魔女はにこりともせずルルーシュを送り出します。
―――白のドレスに、遅れていく姫、それを待つ王子様、か…。
階下へ向かう背中を見つめながら、魔女は小さく一人ごちました。
「それが灰被りの娘の条件だろう?ルルーシュ…」
届きはしない呟きが、先程のルルーシュの質問の答えであっても、当のルルーシュはリヴァルのサイドカーに乗り入れている最中です。
あっという間に小さくなる背中を、魔女――C.C.――は窓に手をついて見送ります。
見上げれば、作りものめいた燦然と輝く星空が。
「…どうか今くらいは幸せな夢を。刹那のシンデレラ」
魔女の小さな小さな願いは、まるで紅茶に落とした角砂糖のように、闇夜に溶けて消えてゆきました。
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そしてそれに伴うパーティーが行われる日です。
サクラダイトを望む各国の重鎮が集う、年一回のそれは世界でも注目を浴びる、それはそれは絢爛豪華なパーティーなのです。
「では行ってくるから、おとなしく待っているんだよ」
「土産はちゃんと買ってきてやるから案ずるな、我が義弟よ!」
「ごめんなさいお兄様。行ってきますね」
「…あの、なんで俺だけ留守番なんですか?」
けれども可哀想に。ルルーシュは、おうちに一人お留守番。
漏らされた不満を聞いて、クロヴィスお兄様は顔色を変えました。
「当たり前だ!今日は会場に枢木スザクがいるのだぞ!?そんな危険な会場におまえを連れて行ける訳がないだろうっ」
「…スザクは俺の幼なじみなんですが……」
「でも、パーティーであまりお二人が仲が良さそうだと、他国にサクラダイトの分配量に対して疑問を持つかもしれないと、シュナイゼルお兄様も…」
「ナナリー騙されるな…。兄上の言うことは八割嘘だ」
「ははは、随分な言い種だね。でも、君だってブリタニアはともかく、枢木スザクにまで余計な不利益を招くのは本意じゃないだろう?」
「それは、そうですが…」
「じゃあ、私たちの言う通り、留守番していてくれるね…?」
「……わかりましたよ。もともとそういった堅苦しいのは嫌いですし、家にいますよ」
もともと社交場嫌いなルルーシュは、兄や妹が言うこともあって割とすんなり納得してしまいました。
ルルーシュが来ないことで大いに嘆くであろう幼なじみのことは、あまり頭にないようです。
「それでは、改めて行ってくるよ」
「はい。お気をつけて。でもナナリーもいるんですから、あまり遅くならないで下さいね。日付が変わる前には戻ること」
「わかりました。あ、そうだお兄様、帰ってきたらこの間の本の続きを読んで下さいますか?」
「もちろん。だけどくれぐれも遅くなるなよ」
「はいっ。いってきます」
「ああ、楽しんでおいで」
ルルーシュは兄たちを送り出したあと、思いがけず空いてしまった時間を持て余してしました。
「ちょうど良いから掃除でもしているか」
けれど綺麗好きなルルーシュは、特に迷うことなくホウキを取りに行きました。
そこへ、灰色の魔女が表れてルルーシュに言いました。
「馬鹿なルルーシュ。何故パーティーへ行かない?」
傲岸不遜な物言いに、ルルーシュは冷笑を浮かべて答えます。
「あんなものわざわざ行く必要があるか?というかそもそも、貴様には関係がない」
「まあ、関係ないと言えばないが…。
私は優しい魔女だからな、愚かなルルーシュに良いことを教えにきてやったんだ」
「はっ、おまえのことだ。どうせ下らないことだろう。聞く気はない」
ルルーシュは魔女の言うことに耳を貸さず、さっさと掃除に取り掛かります。
それを見て、美しいエメラルドの髪を靡かせて魔女は愉快そうに笑います。
「それが枢木スザクのことだとしても、おまえは同じことが言えるか?」
ホウキを持つルルーシュの細い手がピタリと止まるのを見て、魔女はますます楽しそうに微笑みます。
「ピザ、十枚だ」
「………結ぶぞ、その契約」
実に不本意そうに顔を歪めたルルーシュが、渋々条件を飲みました。
どうやら魔女はピザがお好きなようです。ご満悦のていで、人が悪そうにひとつ頷きました。
「その前に質問をしよう。
リ姉妹は以前KMFの国際交流試合で枢木スザクと面識があるのはおまえも知っているだろう?
それ以降ユーフェミアが枢木スザクにご執心だというのは、知っていたか?」
「………一応は」
「さて、それでは本題だ。今日のサクラダイト分配式に桃色の姫君が参加すると知っていたか?」
魔女がそう言うと、ルルーシュの顔色がさっと変わりました。
いくら可愛い義妹だろうと、愛しい恋人を盗られてはたまりません。
「…会場へ行く。今すぐだ」
「賢明だなルルーシュ。服は…そうだな、あれが良い。
白のドレススーツがあっただろう、シルクのハイカラーシャツと揃いの」
「馬鹿な。あれは兄上が戯れで贈ってきたものだ。袖すら通していない」
黒を好むルルーシュに対する嫌がらせなのか、上から下まで真っ白な素敵なスーツをシュナイゼル兄上に渡されたことがあるのです。
今思い出しても胡散臭い笑顔を思い浮かべ、ルルーシュは行儀悪く舌打ちをしました。
「枢木は今日黒のスーツだ。取り合わせとしても、その方が格好がつく」
「なんでおまえがスザクの服装を知っているんだ!」
「文句を言わずさっさとクローゼットを漁って来い。それから足の調達だ」
「貴様に言われなくてもわかっている」
ルルーシュは寝室に向かいながら素早く携帯電話を取り出します。
「…リヴァルか?俺だ。今すぐうちまで来い。五分以内だ急げよ。
………はぁ?ミレイが南瓜プディングを焼いてくれる予定?
…知るか。兎に角早く来い。こっちは緊急なんだ!」
通話の終わる間際、泣きそうな声が聞こえましたが、それに同情するような存在は、残念ながらここにはいません。
ルルーシュは魔女に言われた通りのスーツをクローゼットから取り出すと、ぶつぶつ文句を言いながら手早く身に着けます。
仕上げに紅薔薇をモチーフにしたカメオを、リボンタイでキュッと締めました。
鏡に映るのは、それはそれは麗しく真白いルルーシュの姿です。
振り返って、ルルーシュは魔女を睨みながら問いました。
「ユフィが行くことを知っていたなら、何故事前に知らせなかった?」
その時丁度、家の前でバイクの急停車するけたたましい音が響きました。
リヴァルのバイクに間違いありません。
ルルーシュはちらりと魔女に目を遣りましたが、答える気がないのを知って溜息を吐きます。
「まあ、良い。一応礼だけは言っておく」
「ああ、行ってこいルルーシュ」
魔女はにこりともせずルルーシュを送り出します。
―――白のドレスに、遅れていく姫、それを待つ王子様、か…。
階下へ向かう背中を見つめながら、魔女は小さく一人ごちました。
「それが灰被りの娘の条件だろう?ルルーシュ…」
届きはしない呟きが、先程のルルーシュの質問の答えであっても、当のルルーシュはリヴァルのサイドカーに乗り入れている最中です。
あっという間に小さくなる背中を、魔女――C.C.――は窓に手をついて見送ります。
見上げれば、作りものめいた燦然と輝く星空が。
「…どうか今くらいは幸せな夢を。刹那のシンデレラ」
魔女の小さな小さな願いは、まるで紅茶に落とした角砂糖のように、闇夜に溶けて消えてゆきました。
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