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風通しの良いバルコニーは、とても清々しかった。
室内の贅を尽くした煌びやかなシャンデリアより、二人きりで見上げるよく晴れた星空の方が余程尊く美しい。
眩しい月灯りが、淡く愛しい黄金の肌を照らした。
「でも良かった。ルルーシュが来てくれてっ!」
「ああ。まあ、もともとその予定だったしな」
「ナナリーから君が来ないって聞いて、パーティーサボっちゃおうかと思ってたんだけど、我慢して本当に良かった」
二人して会場からなかばボイコットしたも同然だったが、それについてはスザクは意に介さない様子。
どこまでも自分勝手な幼なじみに呆れて溜め息をこぼしつつ、ルルーシュはスザクが凭れ掛かるバルコニーの手摺に並ぶようにして、ひょいと腰掛けた。
「大袈裟だな。…ユフィだって来ていたんだろう?」
「うん。なんかね、姉妹揃いですごく綺麗なドレス来てたよ。可愛かった」
あはは、と笑うスザクに、ルルーシュはぴくりとこめかみが引きつった。
桃色の姫君がスザクに会いに来ると知ったから、わざわざ行くつもりもない会合に来たというのに。
言うにことかいて自分の前でその姫を誉めるとは、一体どんな神経をしているのかと。
ルルーシュは相手の頭を殴りたいような気にかられる。
「…悪かったな。ひらひらした可愛らしいドレスなんて着てこなくて」
しかし、久しぶりのスザクとの邂逅に、ルルーシュ自ら水を差せるわけもなく。
結局目を逸らして、不機嫌を訴えるように拗ねてみせるのが精一杯だ。
「る、ルルーシュだって可愛いよっ!?今日だって、まさか白で来るとは思ってなかったから……えっと、すごく…びっくりした」
皮肉を込めた言葉に気づいて慌てて取り繕う言い訳が、熱に浮かされてどんどん柔らかくなる。
「それにあんまり綺麗だから、みんな注目しちゃって…なんかシンデレラみたいだったね」
「…っ!だ、黙れ!!」
「ふがっ」
そんなの自分が聞くに耐えなくて、ルルーシュは彼の口を塞いだ。
「んんーんー?」
「俺が許可するまでおまえは喋るな!!」
「う゛う゛ー……。ん!」
「…ひっ、あっ!?」
ばっと、思わず手を離す。
「な、なっ、お、おま…!!」
「もう、苦しいよ!ルルーシュ」
「だた、だだからといって舐めるなっ!」
生々しく感触の残る右手を握り締めてスザクを睨み付けた。
だというのに、ふにゃりと相好を崩して目の前の男は「美味しかったぁ」と、言うのだ。
「こ、この馬鹿が!!」
「あっは、真っ赤だ。可愛い。どこのお姫様より、ルルーシュが一番可愛いよっ」
「~~~~っ!!!!」
可愛い、だなんて不名誉極まりない。
それでも、心底楽しそうなスザクを見て許せてしまえそうになる自分は、きっと愚かなのだろうと、ルルーシュは思う。
にこり、と傾げた首に乗る微笑に、どうしてこうもほだされてしまうのだろうか。
「大体、本物のシンデレラならガラスの靴が必要だろ。俺はドレスも靴も穿いていない」
だから女扱いをするな、と強く視線で訴える。
スザクはきょとんと目を見開いてから、おかしそうにくすくすと控えめに笑い出した。
「…ねえルルーシュ、知ってる?」
「何をだ」
「心理学的に、靴が何を指しているか」
その時、行儀悪くもバルコニーに腰掛け腕で抱えていた右足を、スザクの長い指が撫であげた。
「靴は、確か……」
特に手を払うわけでもなく、ルルーシュは記憶を辿る。
そしてほどなくしてその意味に至った時、ルルーシュはさあっと色をなくした。
顔色でルルーシュが理解したことを知れば、スザクはことさら微笑を深く刻む。
「ね?ガラスの靴なんて、要らないよ」
「ま、待て!俺は十二時までに戻らないとっ」
ナナリーとの約束があるから。
とも、最後まで言わせてもらえない。
「十二時で解ける魔法なんて、ルルーシュにはないだろう?」
優しく優しく囁いてくるくせに、否やは決して言わせない口調。
「待て…っ」
「な・い・よ。だって会えるのだっていつ以来振り?しかもルルーシュ、今日来ない気だったって?僕がどれだけ楽しみにしてたか………」
ルルーシュが好きな新緑色の瞳が、今、眼前に。
「わかってた?」
しかしちっとも笑ってない。
背に回された手が不穏に這い始める。
「わ、悪かった…!次はちゃんと会いに来るっ。だから今日は帰…っ」
だって。
ナナリーとの。
約束が。
ここで負ければ妹との約束は果たせない。
どんなに世界が許そうと、それはルルーシュにとって破ることなど有り得ない律。
「あ、大丈夫。ルルーシュがこっち泊まるって、ナナリーに言っておいたから」
しかし、その一言で視界が暗転した。
――――ガラスの靴は君自身だもの。
耳よりもっと奥に注ぐ吐息。
抱きすくめるのも、なんて手際の良さなのか。
この場で暴れでもすれば、腰掛けたバルコニーから真っ逆様ではないか。
そう、逃げ道はないのだ。
自分にしか合わない靴を、王子に差し出されてしまったら、もう。
「…っ!!熱した鉄の靴は、絶対っ、おまえに穿かせてやるからな……!」
「うわ、怖いなぁ」
十二時を告げる鐘が、今、夜空に荘厳に響く。
解ける魔法もないまま、密やかに笑う声に、ルルーシュはすべてをいだかれた。
「大好きだよ、僕のシンデレラ」
happy end・・・?
*あとがき*
靴は女性器。
それを穿く脚は男性器。
要するに靴を穿かせる行為というのは、そういう意味。…らしい。
…何はともあれ、王子様は幸せです。
室内の贅を尽くした煌びやかなシャンデリアより、二人きりで見上げるよく晴れた星空の方が余程尊く美しい。
眩しい月灯りが、淡く愛しい黄金の肌を照らした。
「でも良かった。ルルーシュが来てくれてっ!」
「ああ。まあ、もともとその予定だったしな」
「ナナリーから君が来ないって聞いて、パーティーサボっちゃおうかと思ってたんだけど、我慢して本当に良かった」
二人して会場からなかばボイコットしたも同然だったが、それについてはスザクは意に介さない様子。
どこまでも自分勝手な幼なじみに呆れて溜め息をこぼしつつ、ルルーシュはスザクが凭れ掛かるバルコニーの手摺に並ぶようにして、ひょいと腰掛けた。
「大袈裟だな。…ユフィだって来ていたんだろう?」
「うん。なんかね、姉妹揃いですごく綺麗なドレス来てたよ。可愛かった」
あはは、と笑うスザクに、ルルーシュはぴくりとこめかみが引きつった。
桃色の姫君がスザクに会いに来ると知ったから、わざわざ行くつもりもない会合に来たというのに。
言うにことかいて自分の前でその姫を誉めるとは、一体どんな神経をしているのかと。
ルルーシュは相手の頭を殴りたいような気にかられる。
「…悪かったな。ひらひらした可愛らしいドレスなんて着てこなくて」
しかし、久しぶりのスザクとの邂逅に、ルルーシュ自ら水を差せるわけもなく。
結局目を逸らして、不機嫌を訴えるように拗ねてみせるのが精一杯だ。
「る、ルルーシュだって可愛いよっ!?今日だって、まさか白で来るとは思ってなかったから……えっと、すごく…びっくりした」
皮肉を込めた言葉に気づいて慌てて取り繕う言い訳が、熱に浮かされてどんどん柔らかくなる。
「それにあんまり綺麗だから、みんな注目しちゃって…なんかシンデレラみたいだったね」
「…っ!だ、黙れ!!」
「ふがっ」
そんなの自分が聞くに耐えなくて、ルルーシュは彼の口を塞いだ。
「んんーんー?」
「俺が許可するまでおまえは喋るな!!」
「う゛う゛ー……。ん!」
「…ひっ、あっ!?」
ばっと、思わず手を離す。
「な、なっ、お、おま…!!」
「もう、苦しいよ!ルルーシュ」
「だた、だだからといって舐めるなっ!」
生々しく感触の残る右手を握り締めてスザクを睨み付けた。
だというのに、ふにゃりと相好を崩して目の前の男は「美味しかったぁ」と、言うのだ。
「こ、この馬鹿が!!」
「あっは、真っ赤だ。可愛い。どこのお姫様より、ルルーシュが一番可愛いよっ」
「~~~~っ!!!!」
可愛い、だなんて不名誉極まりない。
それでも、心底楽しそうなスザクを見て許せてしまえそうになる自分は、きっと愚かなのだろうと、ルルーシュは思う。
にこり、と傾げた首に乗る微笑に、どうしてこうもほだされてしまうのだろうか。
「大体、本物のシンデレラならガラスの靴が必要だろ。俺はドレスも靴も穿いていない」
だから女扱いをするな、と強く視線で訴える。
スザクはきょとんと目を見開いてから、おかしそうにくすくすと控えめに笑い出した。
「…ねえルルーシュ、知ってる?」
「何をだ」
「心理学的に、靴が何を指しているか」
その時、行儀悪くもバルコニーに腰掛け腕で抱えていた右足を、スザクの長い指が撫であげた。
「靴は、確か……」
特に手を払うわけでもなく、ルルーシュは記憶を辿る。
そしてほどなくしてその意味に至った時、ルルーシュはさあっと色をなくした。
顔色でルルーシュが理解したことを知れば、スザクはことさら微笑を深く刻む。
「ね?ガラスの靴なんて、要らないよ」
「ま、待て!俺は十二時までに戻らないとっ」
ナナリーとの約束があるから。
とも、最後まで言わせてもらえない。
「十二時で解ける魔法なんて、ルルーシュにはないだろう?」
優しく優しく囁いてくるくせに、否やは決して言わせない口調。
「待て…っ」
「な・い・よ。だって会えるのだっていつ以来振り?しかもルルーシュ、今日来ない気だったって?僕がどれだけ楽しみにしてたか………」
ルルーシュが好きな新緑色の瞳が、今、眼前に。
「わかってた?」
しかしちっとも笑ってない。
背に回された手が不穏に這い始める。
「わ、悪かった…!次はちゃんと会いに来るっ。だから今日は帰…っ」
だって。
ナナリーとの。
約束が。
ここで負ければ妹との約束は果たせない。
どんなに世界が許そうと、それはルルーシュにとって破ることなど有り得ない律。
「あ、大丈夫。ルルーシュがこっち泊まるって、ナナリーに言っておいたから」
しかし、その一言で視界が暗転した。
――――ガラスの靴は君自身だもの。
耳よりもっと奥に注ぐ吐息。
抱きすくめるのも、なんて手際の良さなのか。
この場で暴れでもすれば、腰掛けたバルコニーから真っ逆様ではないか。
そう、逃げ道はないのだ。
自分にしか合わない靴を、王子に差し出されてしまったら、もう。
「…っ!!熱した鉄の靴は、絶対っ、おまえに穿かせてやるからな……!」
「うわ、怖いなぁ」
十二時を告げる鐘が、今、夜空に荘厳に響く。
解ける魔法もないまま、密やかに笑う声に、ルルーシュはすべてをいだかれた。
「大好きだよ、僕のシンデレラ」
happy end・・・?
*あとがき*
靴は女性器。
それを穿く脚は男性器。
要するに靴を穿かせる行為というのは、そういう意味。…らしい。
…何はともあれ、王子様は幸せです。
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